第7章
第七章
① 5月1日
星空の下、初めて一堂に介した五人は見事な勝ち星を夜空に飾った。
今日も気を失い大荷物となったひまわりを牡丹に任せ、各人は意気揚々と床に就いた。
数時間後、最初に起床したのはリンドウ。ほとんど眠りに落ちていないが、なんとか体にムチを打ち、すぐに身支度を整え早朝の市場へと向かった。
次にドラセナが朝日とともに目覚め、今日からゴールデンウィークの梅屋と牡丹が八時ごろに起床した。そしてひまわりはというと…農家の仕事をそっちのけでグースカピー。
牡丹はひまわりの代わりに農家に欠勤の電話をいれ、仕事へと向かった。
正午を迎える少し前、ひまわりは深い眠りから目を覚ました。机の上には牡丹が作ってくれたであろうカラフルなサラダと、「農家さんには電話しておいた」というメモ。
「またやっちゃったあ」
ひまわりはプチトマトの蔕を指でつまみながら落胆し、珍しくガベリアに弱気を見せた。
「みんなの役に立ちたいよ」
彼女は切に願った。戦いに出たところで何の使い物にもならない。それどころかせっかく皆でチームになれたのに自分は足を引っ張ってばっか。
「雛ちゃんだったらなあ。もっとうまくやってたろうなあ」
いつでも陽気なひまわりの落胆は、まるで世界の落陽のように、同じく陽気なガベリアの心にも影を作った。
そこでガベリアは彼女に一か八か、応急的な話を持ち出した。
「可能性はほとんどないけど…」
それは本当に応急的、というよりも賭けごとに近かった。
もしかひまわりはさらに大きくへこたれてしまうかもしれない。しかしそれが万が一にでも花開けば…。そして何より、ひまわりはどこか、それを起こし得る何かを感じさせる。
ガベリアの提案に寸分の迷いもなくひまわりは首を縦に振った。ひまわりとガベリア立ち上がり、少しあわてんぼうな五月の夏日の河川敷へと向かった。
草野球をする子供たち、自転車の練習をする親子、ランニングをするおじい様、犬の散歩をする女子大生。生物として外に出ない理由のないゴールデンウィークのピーカン照りに、人々は大いにはしゃいでいる。
ガベリアはひまわりを土手に座らせ、指南を始めた。
「難しい話をするから。寝ないでね」
ひまわりはすでに眠そうな目でコクリと頷いた。
「とりあえず今日は話だけね。ウチも よくわかってないから。えーっとまず植物の世界には『開花』っていう概念があるの。まあ突然変異みたいなもん。例えばロージエが出現させる茨。あれはロージエの開花した特殊能力。ロージエは短い時間だけど、あのトゲトゲを出現さして敵を縛ったりなんやりとすることができるんだって。ウチら五匹の妖精の中で唯一開花してんのがロージエ。あとドラセナ君ね。彼が操る蔦みたいなのはアイビンの能力じゃなくて彼自身の開花した能力。だからこれは植物に限った話じゃなくて多分人間とか妖精とか動物とか関係なく皆に起こり得る話。…ここまでオーケー?」
ちゃんと集中して聞いているひまわりに本気を感じたガベリアは容赦せず話の続きを語る。
「まあでもさ、残念ながら誰でもかれでも開花するってわけじゃない。そんなんならこんな危険な人間界にくる妖精は皆開花してからくるでしょ?開花に必要なのは『才能』と『環境』と『運』。つまりいくら努力したところで開花しないヤツは永遠にしないし、逆に開花するヤツは何の努力をしなくても勝手に開花することだってある。だからウチにはひまにどんな才能があるのか、とゆーか才能自体があるのかどうかも正直わかんない。ドラセナ君の場合、人里から隔離され、厳しい自然の中で育った強烈な『環境』と、そもそも生まれもった圧倒的な『才能』。そしてあの山で猿達に拾われた『運』。それらが奇跡的に彼を開花させたんじゃないかな?知らないけどね。ちなみに植物界には風を操るのとか、酸で何でも溶かすやつとか、あとは体から炎を出すやつもいるらしい。例えばだけど炎のやつは乾燥地帯で生まれ育ったから生き抜く中で水分を自在に移動させる術を身につけていったんだってさ。で、体の一部分を究極的な乾燥状態に持っていけることに気付いた時、彼の眠れる才能が花開き、その植物はそこから灼熱の火炎を生成することに成功したんだってさ。結構あっちでは有名な話。まあ全部ロージエからの受け売りだけどさ…あとは」
ガベリアが説明を続ける中、ひまわりはそっと瞳を閉じ、これまでの人生を解釈した。
優しく暖かい家族、雄大な自然、広大な牧場、牛、豚、羊、牛乳、チーズ、ソフトクリーム、シチュー、グラタン…。自分を育ててくれたモノ全て。
その全てのモノに笑顔でいてほしい。そしてその笑顔を全部護りたい。みんなに幸せでいてほしい。ひまわりは自然と両の掌を真上の太陽へと掲げる。
「ちょっとひま、聞いてる?」
五回のウラ。ワンアウト二三塁。絶好の勝ち越しチャンスにバッターボックスに立ったのは今日当たっている八番セカンドの鈴木。結果的にスクイズ失敗ダブルプレーで帰ってきた彼の言い訳は、「土手の女がいきなり光った」とのことだった。総スカンをくらった彼だが、それは果たして鈴木が咄嗟に考えたデタラメだったのだろうか。
「ひま…?」
返事がない。反応もない。ひまわりとのやりとりでこんなことは今までにもたくさんあった。しかしこれは違う。畏怖的な集中力。とても近寄れない。
…何が起きている。おかしい。ありえない。それはありえない。ウチはただ『話をした』だけ。たったそれだけなのに開花するなんて絶対にありえない。しかし彼女の掌はまるで太陽光を吸収するかのように光を帯び始めている。
この子には環境も運も関係ないということなのか。圧倒的才能だけで開花の条件を満たしてしまったというのか。彼女の掌に纏わる光はさらにその強さを増していく。
そしてついに、彼女の光はその姿を視認できなくさせるほどに強烈に発光し、それに伴う光熱が辺りに熱波を巻き起こす。
「ひま!もう大丈夫!それ以上は死んじゃう!」
ガベリアが危険を感じひまわりを呼び覚ます。するとひまわりの光熱はプスリとしぼみ、やがていつものきれいな白い肌が現れた。ガベリアは数秒固まり、ひまわりの天才的才能に畏怖した。
「ひま…」
「えへへ」
「これは…みんな度肝抜くわよ」
「うん!疲れたからちっと寝るね!」
ひまわりは靨を創ると、河川敷の土手で昼寝を始めた。ガベリアはひまわりの子牛のような寝姿を見てほくそ笑んだ。ひまわりの才能、そしてひまわりを引いた自らの強運に。
② 5月5日
今日も仕事を終え、ひまわりが部屋に戻る。牡丹はまだ仕事から帰ってきていない。ひまわりはとりあえず晩御飯の支度を始める。
畑でナスをたくさん貰って来た。今日はナスのなんちゃららを作ろう。まずはナスを一口大に切り、醤油やらなんやらと一緒に火かける。ひまわりが絶対に隠れなさそうな隠し味をフライパンに振りかけようとしたその時、ガベリアの身体を例の寒気が襲う。
「…ひま、現れたよ!」
「よーし!」
身に着けた自分の力を披露したくてウズウズしていたひまわりは、着ていたエプロンそのままに現場へ走った。
「ボタちゃん!」
「(しまった!ハズレが来た!)」
一人で戦っていた牡丹は、颯爽と推参したひまわりの姿を見るや正直な内心を抱いた。
「ロッタ!ガベリア!他のみんなは!?」
「違う場所にもう一体いる!もしかしたらみんなそっちに行っちゃったのかも!」
「そっかあ!大変だあ!…でも、安心してぼたちゃん!もう今までのあたしじゃないから!」
そう言うとひまわりはおもむろに両手を夕空に掲げる。ひまわりの謎の行動にもはや突っ込む余裕のない牡丹は、必死に物体との拳闘を続けた。
「ガベちゃん!この子は何をしてるの!」
ロッタが戦闘に参加しないひまわりについてガベリアに問う。
「ちょっと待っててよ!この子はね!開花したの!」
「ウソ…この子が?」
「今に見ててよ!」
しかし、ひまわりの掌は待てど暮らせど光を帯びない。
「ねえガベリア!」
「ちょっと待ってってば!」
焦るガベリア。苛立つロッタ。必死に掌に集中するひまわり。そしてすでに限界を超えている牡丹。その時、天を見上げたガベリアがある事に気付く。
「そっか!日が沈んだからだ!ひま!今は力は出せないよ!牡丹ちゃんを連れて逃げて!」
ガベリアの推測ではひまわりの能力はおそらく『太陽光の吸収と放出』。そうなると単純に考えて彼女の能力は太陽が照っている日中にしか力を発揮されない。
ガベリアはひまわりにそれを告げる。もう勝ち目がない。この場から引かなければ二人とも死んでしまう。
しかしひまわりは頑なだった。頑固に耳を貸さなかった。もう足を引っ張りたくない。お荷物と思われたくない。彼女の中にはなかった何かが、幸か不幸か今目覚めてしまった。
物体はついにボロボロの牡丹の首に鋭利な腕部を振りかぶる。ひまわりは光の吸収を咄嗟にやめ、牡丹の身体に飛びこむ。
ジャッキンッ!
この時、牡丹は自身に覆いかぶさったひまわりの身体で視界はほぼなく、何が起きたのかを全く把握できていなかった。が、鉄と鉄がぶつかり合う激しい金属音は確かに聞こえた。梅屋かリンドウがあっちの戦いを終わらせて助けに来てくれたのか。ひとまず安心だ。
ただそれはひまわりが見た光景とは全く異なる的外れな考察だった。彼女たちを救ったのは、赤でも青でもなく、純白に光る白き女性だった。
白色の光を持つ女性は、ライフルの銃身で物体の腕部を受け止め、すかさず物体の腹部に蹴りを入れる。物体との距離ができると女性は容赦なく手にも持つライフルを物体に連射させた。
一目見ただけでわかる女性の手練れ具合。ドラセナのとはまた違う。ドラセナも強い、強いのだが、それは粗削りで、形容するならまさに『獣』。
しかしこの女性の戦いはまるでスポーツのように洗練されていて、形容するならばこれはまさに『芸術』だった。
白の女性は瞬く間に物体の脳天を華麗に撃ち抜いた。
散らばり、崩壊する物体。戦闘を終えた白の女性は額の汗を腕で拭い、ひまわりの方へと寄って来た。
「See you later cutie girls」
彼女は一枚の紙きれをひまわりに渡し、彼女の額にキスをした。
女性はその場を去り、ひまわりは自らの情けなさに涙した。
③ 5月8日
戦いがいつ起きようとも、彼女達の日常は止まる事なく動いている。
牡丹は顔の傷を化粧でうまく誤魔化し、ゴールデンウィークとかそれが終わってしまったとか関係なく今日も仕事に出かけていった。
ひまわりもひまわりでせっせと畑で農作業に勤しんだ。時々他の農夫の眼を盗んでは、掌に太陽光を吸収した。
あの夜、突然手に入れたこの能力を過信して、大好きな牡丹を失うところだった。
ひまわりは大きく反省した。自分は自分の身の丈に合ったことを精一杯やろう。ひまわりは畑の柔らかく暖かい土の上で誓った。
休憩中、室田がアンパンのつまみにコンビニで買った写真週刊誌の如何わしいページを読んでいた。ひまわりの前で堂々と袋とじを開ける、このデリカシーも歯もない男はもちろん、生涯独身である。
ひまわりも気にせずその横にちょこんと座り、朝握ってきたおにぎりをパクリと頬張る。すると彼女の目に偶々その週刊誌の表紙の文言が入ってきた。
『ヒーローと謎の物体、黒幕はアメリカか!?』
どこの誰が書いたかわからない、嘘かホントかもわからないその薄っぺらい文言を見て、ひまわりはふと、あの時の白い女性の事を思い出した。
確か外国の言葉でなんか言ってたなあ。そう言えば何か渡された。どこにやったけなあ。ひまわりは女性に渡された、紙きれの在処を思い返した。
昼過ぎに作業が終わり、牡丹宅についたひまわりはまずあの紙きれを探した。あの日着ていた服をはたいてみても紙切れどころか砂利すら落ちてこない。
「しつれーします」
ひまわりは一礼して洗濯籠に投げられたあの日牡丹が来ていた可愛い洋服のぽっけに手をつっこむ。
「あった!」
紙切れに書いてあったのは電話番号のような数字の羅列とよくわからないローマ字。
携帯電話を持っていないひまわりは小銭を握りしめ家の下の公衆電話に向かった。
小銭を入れ番号を押す。三回のコール音ののち、透き通るような女性の応答があった。
「Hi?」
「ハロー」
「Hello.Ah…Who’s speaking?」
「あいむふぁいんせんきゅー?」
「…誰ナンヤデ?」
「菊江ひまわりです」
「コンニチワ菊江ハン」
「コンニチワ」
「ドウイッタゴ用件ヤ?」
「この前助けられた黄色とピンクの黄色です」
「Oh!」
電話の相手が日本人でないことはさすがのひまわりでもわかった。また白の女性と思われる電話越しの彼女も、ひまわりがまともじゃないと直感した。
「ヒマワリハン、コノ後一時間後ニカフェデアエマッカ?」
「オーケーオーケー」
「ホナ」
猿だろうが外人だろうが、へんてこカタコト関西弁だろうが、生きとし生けるもの全てが、ひまわりの先天的な特殊能力により彼女に心を開いてしまう。
やはりこの子には底知れない才能がある。ガベリアは再び畏怖した。
電話が切れ、このあとの新たな出会いにウキウキするひまわりとは対照的に、ガベリアはなぜかイヤな顔で全く乗り気ではなかった。
白い光を纏った女性。あれは紛れもなく妖精の力。つまり彼女にあの光を与えた妖精がいる…。
駅の近くのカフェ。オープンテラスには絵本のように輝くブロンドのロングヘアーに宝石のように青い瞳、そして獲れたての苺のように紅色の唇を携えた、所謂お人形さんのように美しい白人女性が優雅にコーヒーの香りを嗜んでいた。
その姿、ロケーションはまさに洋画のワンシーンのようにフォトジェニックだった。
白人女性がひまわりの接近に気が付く。白人女性はその可憐さに似合わず豪快にコーヒーをガボボと一気に飲み干した。
「ココハ人ガギョーサンオルサカイ外ヲ歩キマヒョ」
ひまわりは彼女の言うとおり、カフェを発った彼女の後に続いた。
少し歩いた先の公園に辿り着き、萎びたシーソーにお互い跨る。ぎーぎーと音を鳴らし、二人はしばらく微睡んだ。
「ワシノ名前ハLilly Edelweissヤデ」
リリーがお辞儀をし、ひまわりも対面でお辞儀をしかえす。
「マイネームイズヒマワリ」
「Nice to meet you Himawari! 」
二人は発言の交換とシーソーの上下を事前に打ち合わせしたわけでもなく何となく合わせて自己紹介をした。
「お久しぶりですね。ガベリア」
「ジャミスンさん…」
リリーのカバンから白い妖精が姿を現しガベリアに話しかけた。他の妖精達と違い、丁寧で物腰の低いジャミスンの態度に、ひまわりは感心した。
「何でジャミスンさんがここにいるんですか」
「話せば長くなるので今度機会がありましたお話しします」
二匹の妖精を見て、こんなに遜るガベリアは初めて見たなあ。妖精の社会も大変だなあ。そしてまたリリーの顔を見て、綺麗な顔だなあ。と、地面をまたポンと蹴り上げた。
「リリーさん。あの日は助けていただいてありがとうございました」
「エエンヤデ。オ互イサマヤン」
「リリーさんは何で日本語喋れるの?」
「ワシハニッポンデハタライテマンネン」
「そうなんだ!」
「兵隊サンヤデ」
「すごーい!だからあんなに強いんだね!」
「セヤナ。何デヒマワリチャンハ戦ウ?ヒマワリチャンハ弱イヤン。危ナイ」
「うーんとね。理由は忘れちゃった!でもね、もう強いんだよ!お昼は!あはは!」
リリーは複雑だった。普通の女の子ならば、あんな危険な目にあったら最後。もう戦いを恐れ、戦いから退いてくれる思っていた。そうなってくれれば彼女たちを救った甲斐がある。
しかしこの女の子はあの時の酷い落ち込みようはどこへやら。むしろあの時よりもどこか元気が倍増しているように伺える。
この子はあまりにも弱い。このままではこの子はいつか必ず死ぬ。彼女はそれを全くわかってない。
さて、本来このリリーエーデルワイスは謎の物体との戦いに参戦する予定ではなかった。あの夜までは。
リリーエーデルワイス。アメリカカリフォルニア州出身、二十五歳の在日米軍所属の軍人である。
蒼い瞳に輝くブロンドヘアー。繊細な手足はよく見れば筋肉密度が高い。
また射撃においては州大会に出場した経験を持つ実力者である。
巷でヒーローと謎の物体の噂が流れだしたある日、都内にある米軍基地でまったりと演習に参加していた彼女に、一匹の妖精が語り掛けてきた。
妖精ジャミスンはリリーに『五人の人間の保護』を依頼した。
『五人の人間』とは、一般人であるにも関わらず聖木を護るため命を懸けることを余儀なくされた若者たちのことであるとジャミスンは語った。
その日以来、リリーエーデルワイスは草陰やビルの上から彼らの戦いを人知れず見守ったり、気が向いたら時々狙撃で手助けしたり、また彼女は彼らのプライバシー保護についても暗躍した。
そして迎えたあの夜。ひまわりと牡丹の命の危機に彼女はいてもたってもいられず反射的にその場から飛び出した。ジャミスンも咄嗟にリリーに自らの力を与え、彼女に白い光を燈した。
「ヒマワリチャン、護身術ヲ教エルデ」
リリーはひまわりをシーソーから降ろし、公園の砂利の上にひまわりを投げ飛ばした。ひまわりの白いブラウスが土で汚れる。しかしながら彼女も気にせず健気に取り組んだ。
「泥だらけだ!リリさん細いのに強いね!」
「ヒマワリチャンモ強クナレルンヤデ」
「もう強いんだよ!」
「ソレワカラン」
「あはは!」
四十分強、リリーがみっちりとひまわりに護身術を叩き込んだ頃、二匹の妖精が物体の出現を察知した。日はまだ照っている。ひまわりは砂利煙で鼠色になった一張羅を両手で払った。
「見守ッテルデ。危ナクナッタラ逃ゲルンヤデ」
ひまわりはニッコリ笑い、ガベリアの導く方へと駆けていった。
「みんな!」
ひまわりが現場に到着した時、四人はすでに物体と戦っていた。いつもより二回りくらい大きな、腕部にはマシンガンを仕込んだ物体が三体。四人は苦戦している。
ひまわりはしめしめと口角をあげた。リリーが木陰で心配そうに見守る。
ひまわりは右腕を天に掲げ、太陽光の吸収を始める。物体の機関銃は一斉にひまわりに狙いを定める。
「ひまわり!逃げろ!」
梅屋がひまわりに叫ぶ。
「やっちゃえ!ひまわり!」
鬱憤の溜まったガベリアが感情を露わにして叫ぶ。ひまわりの掌が光を纏い、それはすぐに強烈なもうひとつの太陽となった。
「たいよーー…ビーーーームッ!」
ドッッッッゴオオオオギュィィンン!
ひまわりは光の溜まった右手をピースサインのように前方へ思いきり開いた。ひまわりがここにたどり着くまでに精いっぱい考えた必殺技名とともに、彼女の太陽は灼熱のレーザービームと化し、閃光、轟音、熱風、あらゆる太陽のパワーを用いて三体の物体を一瞬、一撃で炭と化し焼き尽くした。
「Wow…」
「うそだろ…」
「何今の!ひまちゃん!」
牡丹が炭と化した物体を見るやひまわりに駆け寄り抱き着いた。続いて残りの梅屋とリンドウもひまわりに近寄り称えた。ひまわりははじめてみんなに褒められた事が逆に居心が悪かったので、いつもより深い靨を創り下をむいた。
「ひま!やったね!」
ガベリアの称賛にひまわりはピースサインをつくり、他の妖精達もそれを称えた。
牡丹と暮らし、梅屋をリーダーと慕い、リンドウに仕事を宛がってもらい、そして唯一ドラセナと意思疎通を可能とするひまわりがいたからこそ、交わることのなかったこの五人は、ただの五人組からチームになっていったこと、四人は理解していた。
皆を照らす太陽。彼女の笑顔が戻ってきたこと、そして彼女が誰よりも強い必殺技を手に入れたこと。チーム皆が心から喜んだ。
このチームにお荷物なんていない。それぞれの弱いところ皆で補い合える、彼らは五人で、いやあるいは六人で一つなのだ。