第6章

第6章 

 

① 4月30日

 

 人と人とをつなぐ『間』には様々な関係性がある。親族、友人、仲間、同僚、敵、そして他人。人はそのような『間』を持ち、はじめて、いち生物から『人間』へと昇格する。

 梅屋芍薬、リンドウアヤメ、桜田牡丹、菊江ひまわり、ドラセナ。彼ら五人の関係性は何だろうか。

 『妖精に導かれた五人』、今のところはまだそれ以上でもそれ以下でもない。

 たったそれだけの繋がりである五人は不思議なことに今夜、全く違う場所で同じ星空を眺めていた。

 気持ちの良い夜風がそれぞれの顔の傷に沁みた。もし、謎の物体が聖木を焼き払ってしまったらどうなるのだろう。今、植物界を護れるのは自分達しかいない。わかってはいるがやっぱり死ぬのは怖い。覚悟を決めるのは簡単なことではない。

 ドラセナを除く四人は生き残るためにあらゆる努力を惜しまなかった。梅屋は道着に袖を通し、生徒達と竹刀を打込んだ。リンドウは学生時代に齧ったフェンシングを思い出し、武具店でフェンシングサーベルを購入した。牡丹とひまわりも近所のボクササイズジムに通い、少しでも戦力になれるよう努めた。

 それぞれができることをそれぞれの為に。夜風と星空は人知れず切磋する彼らを励ました。

 

 時刻はもうすぐてっぺんを回る。始まりの四月が終わりを迎えようとしている。

 物体は今夜も寝静まった街に物体を繰り出した。それを察知した五匹の妖精たちは、眠りにつく各人、引き続き夜空を見つめ更けていた各人に告げる。

 梅屋とリンドウがすぐに現場に駆け付ける。二人はその光景に息を飲んだ。いったい何体いるんだ。 

 直後、牡丹とひまわりも駆け付け、さらにはドラセナも山から下りてきた。

 眠そうな牡丹がその数を見て完全に眼を覚まし、ひまわりはその数を礼儀よく数えるも両手で足りないとわかるやすぐにそれを諦めた。数では劣る。しかし、もう恐怖は少ない。

 

「はじめて五人揃いましたね」

 

 ひまわりが皆に言う。五人はお互いの顔を見合った。先ほどまで別々に見ていた星空の下で。

 ひまわりの差し出した手に梅屋も手を乗せる。ドラセナが乗せ、リンドウも乗せ、そして最後に牡丹が乗せた。梅屋の威勢の良い掛け声とともに五人の中の淡い光が灯りだす。

 

 

 夜な夜な謎の影から東京を守るヒーローの噂はすでに日本中に広がっていたが、その姿を見た者は実際にはいるのかいないのか。あくまでただの都市伝説とする見解が支配的であった。

 浅海遥は小さな出版社に勤めるオカルト系雑誌のライターである。彼女は近頃一貫して『謎の物体と謎のヒーロー』について取材を続けている。これまでの取材の成果は…まだ一つもない。

 火のない所に煙は立たぬ。都市伝説はあくまで都市伝説ではあるが、土台となった何かは存在しているはずだ。浅海はそう信じて足を動かし続けた。

 巷の噂によると、市民が寝静まった深夜、不法に投棄された廃棄物が一人手に動き出し、それが一か所に集い、例のドス黒い物体を形成していくのだという。何ともオカルト染みた話だ。それがゾクゾクと興味をそそるのだが。

 さて、彼女がいくら取材のアンテナを張り巡らそうとも、怪しいスポットに蔓延るのはしょうもないフェイクばかりであった。

 取材に出掛けては何の成果も持って帰って来ない彼女を上司は穀潰しと罵った。それでも負けず嫌いの彼女は、ヒーローの極微な残り香を探り喰らいついた。 

 とはいっても今日も取材は悉くハズレ。帰社後は上司にこっぴどく叱られた。それでも彼女は孤独な帰り道をめげずに歩いていた。

 その時、彼女の五感が何か重たい音を感じ取った。今日の成果を記すメモ帳を一旦ポケットにしまい、音の方へと近寄ってみる。すると彼女の目線の先には、フラフラゴツゴツと人気のない道を進む物体の姿があった。

 遂に女神がほほ笑んだ。宗教に熱心な方ではなかった彼女もこの時ばかりは神の存在を肯定し天に感謝した。

「ああ神様!やはり恵まれないこの子羊ちゃんを助けてくださったんですね!」

 夜道のOLをストーキングする変態をストーキングして取材したことがある。あの時は危うく包丁で殺されかけたが、まさかその時の経験がここに活きてくるとは!

 浅海はそろりそろりと謎の物体をつけた。リュックから一眼レフを慎重に取り出し、その瞬間を逃さまいと腕の筋肉を緊張させた。

 物体はただ真っすぐではなく、人気のない道を選んで歩いている。その証拠に、物体は未だ、誰ともすれ違っていない。

 もう一時間程歩いているのではなかろうか。物体が世界に強烈な重力をのしかけているかのように、時は重く、濃く、ゆったりと流れている。そしてついに物体は人気のない公園へと辿りついた。

 浅海がつけた物体の他に、目視できるだけで…十の物体がこの場所に集結していた。

 物体らはそれぞれ少し離れた草木の影からでもわかり得るほどの邪悪なオーラを纏っている。しかしその邪悪は、対面から現れた闇夜を灯す五色の人影によって中和された。

 ヒーローだ!やはり実在していた!興奮を禁じ得ない浅海は、親の仇のようにシャッターを何度も切った。しかし、そのご尊顔は淡い光によって見ることができない。

 浅海はすぐにシャッターから人差し指を離した。浅海は冷静だった。もしヒーローが素顔を露わにしたとき、フィルムと電池が残っていないのではお話にならない。この千載一遇のチャンス。絶対にモノにしなければならない。彼女はカメラを降ろし、植木の影でその時をジッと待ち構えた。

 本当に目の前でヒーローと物体が戦っている。浅海は小学生の頃、初めて男性アイドルのライブに行ったとき、ステージの上で米粒くらいの憧れのアイドルが歌っているのを見て、本当に実在してるんだなあと、感動したのを思い出した。

 彼女は拷問のような物体の殴打、何度も立ち上がるヒーロー達、赤いのが棒切れを拾うとそれは赤く光り、同様に青いのが握った枝切れは青く灯った。前者は剣道の竹刀のように、後者はフェンシングのサーベルのようにそれを駆使して戦っている。

 そして圧倒的なスピードとパワーを兼ね備える緑、それらには劣るが身のこなしが身軽なピンク、そして一撃でのされてしまった黄色。目に入るもの全てが記憶に留めておかなくてはならない重要な瞬間だった。

 浅海は離していた人差し指をすぐにシャッターへと移し、堪えられず再びソレを切り始めた。 

 しかし、その人差し指がまた止まる。無我夢中にシャッターを切りまくる背中に彼女は何か冷たくて固いものを感じた。

 彼女が不審に思い後ろを振り返ろうとしたその瞬間。

 

「ソノママ動カナイデ」

 

繊細な女性の声だった。

 映画フリークである彼女に背後で鳴った金属音を撃鉄が引かれる音だと判別するのは容易だった。

  背中にあたっているものがピストル類であると理解した彼女はファインダー越しにヒーローと物体の戦いを覗きながら、全神経を背中の一転に集中させた。

「ソノカメラヲコッチニ渡スカ、ココデ死ヌカ。選ブンヤデ」

 そのおかしなイントネーションから、銃を突き付けている背後の女性が日本人でないことは確かだ。それより何故関西弁なんだ。奇妙な関西弁がより、これがただ事ではないということを彼女に把握させた。

 彼女が何も言えずに怯えていると、背後の女性は、彼女が日本人ではないと考えたのか、流暢な英語で再び問いかけてきた。せっかく訪れたこの起死回生の好機、しかしながら背に腹は代えられず、泣く泣く命を取った彼女は両手で構えたカメラを背後に回した。

 

「Good choice」

 

背中から冷たい金属が離れ、気配が離れていくのをただ茫然と背中で感じた。

 彼女が再び意識を前方に戻すと、すでに両者の戦闘は決着していた。

 目の前にはただ、バラバラになった物体の残骸が何も語らずに散らばっていた。

 

② 5月1日 

 

 回想する間もなく朝が明けた。物体の残骸を調べようとそれらを観察しているとすぐに警察が駆け付けてきた。浅海は逃げるように公園を出て、地下鉄の出入り口で少し仮眠をとり、日の出とともに出社した。

 彼女は出社するやいなや、編集長に目にしたこと、耳で聞いたこと、肌で感じたことの全てを正直に話した。

 眼の下には真っ黒なクマ。そして頭のおかしな彼女の言動。最後まで真剣に聞いた編集長は、しばらく厳しい顔を保った。

 浅海は直感した。クビだ。

 しかし、編集長はありったけの笑顔で終始和やかに、浅海の言動を褒め讃え彼女を再び送り出した。何故か。編集長はこの時全く別の心中にいた。

 しまった。追い込み過ぎた。私がこの女を壊してしまった。昨今パワハラだなんだと騒がしいこのご時世。それを暴く我々出版業者が、逆にそれを犯してしまったと世間にバレれば私は社会的に抹殺される。ここは穏便に。この女を外に放ってはならない。囲っておかねば。

 何かよくわかんないけどラッキー♪今回ばかしは就活する羽目になるかと、地下鉄駅構内の求人誌を自然に手に取ってしまっていた浅海は、編集長に一礼して汚い自らのデスクへと軽やかに戻っていった。

 決して高くないカメラを獲られたことはかなりの痛手だったが、結果的にまだ誰も知り得ない事実を大漁に手に入れた。間違いない。私はこの業界で、『ヒーローと謎の物体』について頭一つ抜け出した。

 朝一、彼女はまず昨晩謎の物体と遭遇した場所にもう一度訪れた。

 大手出版社ならば金なりを積んで、それなりのパイプと等価交換でもして有益な情報を得ると聞いた。が、彼女の属する小さな出版社では代々、「情報は足で稼げ」と教え込まれている。

 教えに従い、浅海は謎の物体が通った道を、何か少しでもいいから手掛かりが落ちてやいないかと、腰を低くして探した。しかし、明朝清掃車でも通ったのか、道には米粒一つ落ちていない。

 三時間ほど辺りや戦闘現場付近を探索したが有力な情報は得られず。今一度謎の物体と鉢合わせた場所に戻り、曲げっぱなしだった腰をぐっと伸ばした。

 腰骨がゴキと威勢よく鳴り、私ももう若くないないと笑っていると、彼女はある事に気付いた。

 

「…防犯カメラだ」

 

 視線があがった先のマンションのエントランスに防犯カメラが備え付けられているのを見つけた。

角度的にこの通りを抑えているはずだ。彼女はマンションの管理室へと向かった。

 取材のため、防犯カメラの映像を拝見させて頂きたいという旨を宿直者に伝える。やる気のないバイトは簡単にそれを了承した。

防犯カメラの時刻を鉢合わせた時刻に設定し齧り付くようにモニターに注視する。

 まずモニターに映し出されたのは南西方向へ向かう帰路中の浅海の姿だった。おそらくこの三分後ないし五分後、物体の姿が映し出されるはず。浅海はその瞬間を固唾を飲んで待った。

 すると映像は北東方面へそろそろと歩く浅海の姿を映し出した。見逃したか?巻き戻しを要求すると、宿直者が面倒くさそうに十秒ほど映像を戻す。しかし物体の姿は確認できない。何度巻き戻してみても、浅海が南西方向へ歩いた数秒後、再び浅海が逆方向へと歩いていく映像しか記録されていなかった。

「お姉さんナルシストなんですか?」

何度も行ったり来たりする自分の姿を見る浅海を宿直者がからかう。浅海はそれを完全に無視して、すぐ隣のマンションに走った。

 同様に防犯カメラの映像を確認させてもらうとやはり、こちらもその数秒間の映像だけが見事に失われていることが判明した。

 人為的な関与、あるいは謎の物体が強力な磁場か何かを発してカメラがイってしまったのか。

 よくよく考えてみれば、都内には死角がないほどに防犯カメラが設置されている。それを警察なり政府なりがチェックしないわけがない。

 ではすでに警察はこの事実を周知していると考えるのが妥当。じゃあ何故それを公表しない?『ヒーローと謎の物体』が実在しているのはそれを見れば一目瞭然だ。

 警察が何かを隠蔽している?彼女はオカルト系雑誌ライターらしく陰謀論を軸に考察を展開させた。

 カメラを獲られた。それは見られたらまずいものがあったからだ。何を見られたらまずかった?ヒーローの素顔?謎の物体の目的?

「敵は、大きそうね…」

 彼女は高らかにニヤけ、さらにギアをあげ再び足を勇ませた。

  

 

「えーっとお名前は?」

「徳永茉麻です」

「身分証かなんかあります?」

 目撃者と名乗る人物が提示したグリーンの免許証を、夏焼刑事は一目だけ見て返却した。聴聞はものの数分で終わり、夏焼は目撃者をパトカーで送り届けるように所轄に言った。

 もはや敬礼かどうかもわからない所作を残し黄色のビニールテープをくぐる。テープで囲まれたその中心、跡形もなく崩れ散る謎の物体、通称廃棄物集合物体。またの名を…そろそろ呼び方を統一してほしいものだと、夏焼は散らばったゴミを眺めて思った。

 これまでに集められた廃棄物集合物体の残骸は全て警視庁で保管している。それらは科学捜査等を用いて全て調査済みであるが、結論はいつでもただの廃棄物、ゴミである。

 これらが独りでに動く?そんなことは以ての外。しょうもないバカの戯言である。

 都内の防犯カメラにも廃棄物集合物体とやらも、ソレと付随され語られるヒーローとやらも全くその姿を映していない。

 未だ警察内に謎の物体、あるいはヒーローの姿を目撃したものは一人もいない。監視カメラにも映っていない。それはつまりヒーローも独りでに動く廃棄物集合物体も全く存在していないということを示している。

 そうしたことから、警察は『彼ら』がグルで、これはパフォーマンスか何か、目立ちたがり屋の自作自演の類だと考察した。

 前述の『彼ら』、という言葉には、目撃者連中も含まれる。

『彼ら』は廃棄物集合体やヒーローという虚像を用いて、何か、例えば自然保護だとか環境保全だとかを啓蒙しているつもりなのだろう。

 壊れた家電をあたかも動いていたかのように、ゲリラ的に、無造作に配置し、自ら通報して警察を呼び出し、「ここで戦っていた!」と証言する。界隈の言葉でいえば前衛アートとでもいうのだろうか。つまるところ、これはそういったしょうもない連中のしょうもない行為であるのだ。

 夏焼は昼夜問わず、『彼ら』が現れては呼び出され、現れては呼び出され、ほとんど手掛かりのない現場検証をし、怪しすぎる目撃者の言い分を延々と聞く。

 目撃者たちが語る真実とは、夏焼にとっては虚言癖者の戯言であり、それはもう彼にとって聞く必要のないただの空気の振動でしかなかったのだ。

 空虚に割かれる我が貴重な時間。夏焼の昨夜と翌朝の区切りは限りなく無に近く、延々と終わらない一日を過ごしているようだった。

 

③ 5月2日

 

「失礼します。警察です」

 インターフォンが突然鳴った。雑居ビルの三階店舗のモニターには警察手帳を持った男二人と三四十代くらいの男が立っている。

「がさ入れだ」

 慌てふためいた店長の一声により、バイト君が危ない書類を裏でシュレッダーに掛けはじめたこの店舗は、所謂風俗店である。

 店長がいつもより気持ち身包みを整え、深呼吸を一つついた後、警察らを招き入れた。

「すみませんね営業中に。ここからハッキングされた形跡がありましたんでちょっと調べさせてください」

 店長は呆気に取られた。そんなことはもちろん心当たりがない。だからと言って断れば何かやましい事があるのかと詰められそうだし、何より実際に『やましいこと』が裏にはある。

 店長が奥に彼らを通せずにいると、察した警察の一人が表情を変えずに言った。

「別に今日は他のことには興味ないんで。何か隠蔽してるんだったやめさせてくれて構わないですよ」

「べ別にやましい事なんてありませんよ!」

 すると店長は奥のバイトの元へ走る。音が止んだところで、彼は警察らを奥に通した。

「二瓶頼むわ」

「はい」

 二瓶と呼ばれた警察官が余熱の残るシュレッダー横のデスクトップの前に三四十代の男を座らせ、男の出す結論を椅子の背もたれに手をつき待っている。

 一方二瓶の上司であろうもう一人の警察官は受付に貼られた本日出勤の女の子の顔写真をツラツラと閲覧していた。

「…オススメの子は?」

 上司警察官はまた表情一つ変えずが店長に問うた。

「(た、試されている!?)お、お好みのタイプは!」

「ちゃんと納税してる子」

「(い、いない!)エミちゃんはどうでしょうか!清楚で真面目な女の子であります!」

「へえ。オプションは何があんの」

「(つけるべきか!つけぬべきか!もし前者ならば何を勧める!ローターか!チェキか!いや聖水か!?)」

 都内の防犯カメラの映像が『その部分』だけ切り取られている。しかし『その部分』を映していたであろうカメラには意外にもハッキングされた形跡が残されていた。

 しかし、調査が進むにつれ、容易に犯人に辿り着くであろうと思われた追跡に暗雲が立ち込める。痕跡の残されたコンピューターを検査したところ、それもまたどこかからハッキングされた形跡を検出させたのだ。

 次のコンピューターも、その次、さらにまたその次も。このハッキングは延々と様々なコンピューターを経由し続けていることが捜査により明らかになった。そしてこのコンピューターも。

「ここも違いますね…」

 三四十代の男が、約四十分の成果を残念そうに伝えた。

「そうですか」

 二瓶が静かに漏らし、受付に向かう。

「夏焼さん、シロでした」

 二瓶が受付の警察官に伝える。自身の報告に、何故か店長が安堵し肩を撫で下ろしていたのが気になった。

「じゃあ今度遊びに来ますね」

 二瓶の報告に夏焼はまるで結果がわかっていたかのように呆気なく反応し、店長に一言添え店を後にした。

 繁華街から警視庁に戻る道中での覆面パトカー。夏焼は後部座席に座り、首都高の流れる景色を眺めながら思いに更けた。

 上が簡単に下したパフォーマンスという結論。しかしパフォーマンスにしてはあまりにも用意周到すぎる。

 単なる前衛アートだか自然保護団体か何か知らんが、そんな半端者の集まりがウチの捜査班を欺くほどの技術を有しているか?だいたい何をそんなに隠す必要がある?アーティストなら名前と顔がバレてナンボじゃないか。

 しかし本腰をいれて調べるにはあまりにも目立ちたがり屋のバカが多すぎる。これじゃ真偽の取捨選択だけで定年を向かえる。第一こんなことを捜査した先に何がある?別に人が死ぬわけでもないだろうに。

 霞を網で掬うようなやり甲斐のない捜査。夏焼はただやるせなかった。三人を乗せたパール色の車はビルの中に時折擬態し、その姿を街から消した。